皆様、おはようございます。
第3回目は世界の名作文学の御紹介です。
【 少年少女世界の名作文学7 】
イギリス編
宝 島
原 作/ロバート・ルイス・スチーブンソン氏
訳 者/近藤 健( けん )氏
第一章 老 海 賊
(一)“ ベンボー提督亭 ” に来た男
僕は はっきり覚えている。
僕の父が “ ベンボー提督亭 ” という、変わった名前の宿屋をやっていた時のことだ。
手押し車で荷物を運ばせながら、一人の男がのっそり入って来た。
荷物は、船乗り用の大きな衣装箱だった。
だからもちろん船乗りだろう。もう年寄りだが背が高く、頑丈な体つきだった。赤黒い顔には大きな刀傷があった。太い二本の腕にも傷痕がいっぱいあって、爪は黒くて割れていた。
その男は入り江の方を見回しながら、低く口笛を吹いていたが、ふいに歌いだした。
死人の箱にゃ 十五人
ヨイ コラ ホイ!
飲もうよ、ラムがひとびんだ
嗄れ声は歌っているというより、まるで吠えているみたいだった。
それにしてもこの乱暴な船歌は、その後でもよく聞かされた物だった。
いや、それはともかく男はそれから棒切れで、乱暴にドアを叩いた。父が出て行くと、ぶっきらぼうないい方でラム酒を一杯注文した。それをちびりちびり飲みながら、
「 こいつはつごうのいい入り江だよ。それに、酒場のここんとこからでもすっかりながめられらあな。気に入ったぞおやじ! それでどうだい、客は多いのかい? 」
と、あごをしゃくった。
「 いえそれが、その・・・・・お客さんはまるで少なくて・・・・ 」
父は、おどおどしながら答えた。
「 そうかい、そんなら俺にはおあつらえのねぐらだあな。当分世話になるぞ。ーーーおい、その荷物!」
ぼやっと突っ立っている人夫をどやしつけて、二階へ荷物を運ばせた男はまた続けた。
「 おやじ。俺はな、世話のやけない男だよ。ラムと卵をのっけたベーコンさえありゃあな。おっと、それによ、船を見張れるあのみさきとな。ーーーなに、俺の名かい? そうだな、“ 船長 ” ということにしておこう・・・・・。そうか、分かってるよ 金だろう。ーーーほれ!」
と、テーブルの上に金貨を三、四枚投げ出した。
「 そいつがなくなったらそういえ!」
それは、まるで家来に命令でもしているようないばった態度だった。
が、ともかく、こうしてその男は “ ベンボー提督亭 ” のお客になった。服はぼろだし、言葉も汚くて感じの良いお客ではないが、それでいて、なんとなくただの船乗りとは思えない、どっしりしたいかめしいところもあった。
僕も家( うち )の人達も、言われた通り “ 船長さん ” と呼ぶことにした。
ところでこの “ 船長 ” は、やることなすことみんな変わっていた。
昼は大きな望遠鏡を抱えて、一日中入り江の周りや崖の上を散歩していた。いや、散歩というと上品だが、見たところではほっつき廻っている、といった格好だった。また夜は、いつも酒場の隅で強いラム酒を飲んでいた。人に話しかけられても、返事どころかうるさそうに睨み返すばかりだった。
これでは家( うち )の人達やお客さんにしても、段々と側に寄り付かなくなるのも当たり前だろう。
「 おい、俺のるすにだれか船乗りが来なかったか?」
外から帰った “ 船長 ” は、僕や父に必ずそう聞いた。
仲間だろうか、それとも兄弟だろうか、よほど待ちこがれている風に見えた。
ところが、実はそうではなかったのだ。
ある日 “ 船長 ” がそっと僕を呼んだ。
「 おい坊主! 俺のいる時でもいない時でも、もし船乗りのような男が来たら、まずこっそり俺に知らせるんだぞ。とくに、一本足の船乗りには気をつけるんだぞ。そいつに見つかるとうまくねえことになるんでな。俺の最後にもなりかねねえんだからよ。いいな、一本足の船乗りには特別気をゆるすなよ!」
その代わり、毎月 月の始めに四ペンスの銀貨をくれると約束した。
約束のその銀貨はいつの月も遅れがちだった。が、それでも催促するとしぶしぶ出してくれた。そしてその時も決まって、
「 一本足には油断するな! 」
と、繰り返した。
ところで、そうも一本足の・・・一本足の・・・と繰り返されると、その “ 一本足の船乗り ” が、僕の夢の中にまで出てくるようになってしまった。
荒れ狂う波が入り江や崖で吠えたてる夜など、その男が様々な恐ろしい格好で出て来た。
時には足が膝の所から切れ、時には股の付け根からすっぽり切れていた。また、時にはその一本足が、胴の真ん中から付いている化け物であったりした。ーーーその化け物が垣根や溝を飛び越えて、追い駆けて来るのが一番怖い夢だった。
そんな理由( わけ )で一月に四ペンス貰えるとはいえ、やりきれた物ではなかった。
尤( もっと )も僕は、“ 一本足の船乗り ” には毎晩悩まされ恐くて堪( たま )らなかったが、“ 船長 ” その物は皆の言う程恐いとは思わなかった。
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ベンボー提督亭に厄介そうなお客がやって来ましたね。少年の目には怖そうに見えなかった船長ですが、この船長という人物は一体何物なのでしょうか。そして一本足の船乗りとはどんな人物なのでしょう。
Sakuya⚛️
*原本よりも漢字表記を多めに使用して御紹介しています。
少年少女
世界の名作文学第7巻 イギリス編5
原 作/ロバート・ルイス・スチーブンソン氏
訳 者/近藤 健( けん )氏
発 行/昭和40年9月20日
発行所/株式会社 小学館
編 者/©️ 名作選定委員会