書物の御紹介

ファンタジー・神話・文学・昔話・民話・絵本

~変わり者の船長~ 宝島/entry03

皆様、おはようございます。

第3回目は世界の名作文学の御紹介です。

 

f:id:sakuyamonju:20191214111950j:plain

 

少年少女世界の名作文学7 

        イギリス編

 

    宝    島

    原    作/ロバート・ルイス・スチーブンソン氏

    訳    者/近藤    健( けん )

 

    第一章    老    海    賊

 

f:id:sakuyamonju:20190806110326j:plain

 

f:id:sakuyamonju:20190806110716j:plain

イギリス東部の代表的な漁師の家

 

(一)“ ベンボー提督亭 ” に来た男

 

    僕は    はっきり覚えている。

僕の父が “ ベンボー提督亭 ” という、変わった名前の宿屋をやっていた時のことだ。

手押し車で荷物を運ばせながら、一人の男がのっそり入って来た。

荷物は、船乗り用の大きな衣装箱だった。

だからもちろん船乗りだろう。もう年寄りだが背が高く、頑丈な体つきだった。赤黒い顔には大きな刀傷があった。太い二本の腕にも傷痕がいっぱいあって、爪は黒くて割れていた。

    その男は入り江の方を見回しながら、低く口笛を吹いていたが、ふいに歌いだした。

 

        死人の箱にゃ    十五人

            ヨイ    コラ    ホイ!

        飲もうよ、ラムがひとびんだ

 

嗄れ声は歌っているというより、まるで吠えているみたいだった。

それにしてもこの乱暴な船歌は、その後でもよく聞かされた物だった。

    いや、それはともかく男はそれから棒切れで、乱暴にドアを叩いた。父が出て行くと、ぶっきらぼうないい方でラム酒を一杯注文した。それをちびりちびり飲みながら、

「 こいつはつごうのいい入り江だよ。それに、酒場のここんとこからでもすっかりながめられらあな。気に入ったぞおやじ!    それでどうだい、客は多いのかい? 」

と、あごをしゃくった。

「 いえそれが、その・・・・・お客さんはまるで少なくて・・・・ 」

父は、おどおどしながら答えた。

「 そうかい、そんなら俺にはおあつらえのねぐらだあな。当分世話になるぞ。ーーーおい、その荷物!」

ぼやっと突っ立っている人夫をどやしつけて、二階へ荷物を運ばせた男はまた続けた。

「 おやじ。俺はな、世話のやけない男だよ。ラムと卵をのっけたベーコンさえありゃあな。おっと、それによ、船を見張れるあのみさきとな。ーーーなに、俺の名かい?    そうだな、“ 船長 ” ということにしておこう・・・・・。そうか、分かってるよ    金だろう。ーーーほれ!」

と、テーブルの上に金貨を三、四枚投げ出した。

「 そいつがなくなったらそういえ!」

それは、まるで家来に命令でもしているようないばった態度だった。

が、ともかく、こうしてその男は ベンボー提督亭 のお客になった。服はぼろだし、言葉も汚くて感じの良いお客ではないが、それでいて、なんとなくただの船乗りとは思えない、どっしりしたいかめしいところもあった。

僕も家( うち )の人達も、言われた通り 船長さん と呼ぶことにした。

    ところでこの 船長 は、やることなすことみんな変わっていた。

昼は大きな望遠鏡を抱えて、一日中入り江の周りや崖の上を散歩していた。いや、散歩というと上品だが、見たところではほっつき廻っている、といった格好だった。また夜は、いつも酒場の隅で強いラム酒を飲んでいた。人に話しかけられても、返事どころかうるさそうに睨み返すばかりだった。

これでは家( うち )の人達やお客さんにしても、段々と側に寄り付かなくなるのも当たり前だろう。

「 おい、俺のるすにだれか船乗りが来なかったか?」

外から帰った “ 船長 は、僕や父に必ずそう聞いた。

仲間だろうか、それとも兄弟だろうか、よほど待ちこがれている風に見えた。

ところが、実はそうではなかったのだ。

    ある日 船長 がそっと僕を呼んだ。

「 おい坊主!   俺のいる時でもいない時でも、もし船乗りのような男が来たら、まずこっそり俺に知らせるんだぞ。とくに、一本足の船乗りには気をつけるんだぞ。そいつに見つかるとうまくねえことになるんでな。俺の最後にもなりかねねえんだからよ。いいな、一本足の船乗りには特別気をゆるすなよ!」

f:id:sakuyamonju:20190604134207j:plain

その代わり、毎月    月の始めに四ペンスの銀貨をくれると約束した。

 

    約束のその銀貨はいつの月も遅れがちだった。が、それでも催促するとしぶしぶ出してくれた。そしてその時も決まって、

「 一本足には油断するな! 」

と、繰り返した。

    ところで、そうも一本足の・・・一本足の・・・と繰り返されると、その 一本足の船乗り が、僕の夢の中にまで出てくるようになってしまった。

荒れ狂う波が入り江や崖で吠えたてる夜など、その男が様々な恐ろしい格好で出て来た。

時には足が膝の所から切れ、時には股の付け根からすっぽり切れていた。また、時にはその一本足が、胴の真ん中から付いている化け物であったりした。ーーーその化け物が垣根や溝を飛び越えて、追い駆けて来るのが一番怖い夢だった。

    そんな理由( わけ )で一月に四ペンス貰えるとはいえ、やりきれた物ではなかった。

    尤( もっと )も僕は、 一本足の船乗り  には毎晩悩まされ恐くて堪( たま )らなかったが、 船長 ” その物は皆の言う程恐いとは思わなかった。

 

 

 

🌿🌿🌿🌿🌿🌿🌿🌿🌿🌿🌿🌿🌿

 

    ベンボー提督亭に厄介そうなお客がやって来ましたね。少年の目には怖そうに見えなかった船長ですが、この船長という人物は一体何物なのでしょうか。そして一本足の船乗りとはどんな人物なのでしょう。

        Sakuya⚛️

 

 

原本よりも漢字表記を多めに使用して御紹介しています。

 

 

 

 

 

少年少女

世界の名作文学第7巻 イギリス編5

    原    作/ロバート・ルイス・スチーブンソン氏

    訳    者/近藤    健( けん )

    発    行/昭和40年9月20日

    発行所/株式会社 小学館

    編    者/©️ 名作選定委員会